知的財産法 後期第11回続き
第11回続き
商標的使用か否か
商標の使用でない場合、商標権侵害を構成しない。
形式的に使用の定義に該当しても、実質的に使用でないとされる場合、商標権侵害を構成しない(ポパイ事件)
商標の定義
第二条 この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)
商標たる要件
1) 客体要件: 「標章」であること
2) 主体的要件:業として商品・役務を提供する者
3) 行為要件:当該商品や役務について使用する
この結果、普通名称や慣用商標でも、法律上の商標・・登録要件により、ふるいをかける。
商標の使用とは(1)
商標法
第二条
3 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
一 商品又は商品の包装に標章を付する行為
二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
三 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為
四 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為
五 役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為
六 役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為
七 電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法をいう。次号において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為
八 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
九 音の標章にあつては、前各号に掲げるもののほか、商品の譲渡若しくは引渡し又は役務の提供のために音の標章を発する行為
十 前各号に掲げるもののほか、政令で定める行為
4 前項において、商品その他の物に標章を付することには、次の各号に掲げる各標章については、それぞれ当該各号に掲げることが含まれるものとする。
一 文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合の標章 商品若しくは商品の包装、役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告を標章の形状とすること。
二 音の標章 商品、役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告に記録媒体が取り付けられている場合(商品、役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告自体が記録媒体である場合を含む。)において、当該記録媒体に標章を記録すること。。
商標的使用に関する裁判例
装飾的・意匠的使用・・ポパイ事件
付記的使用・・オールウェイ事件
素材・機能表示・・ピタバ事件
ポパイ事件大阪地裁 昭和 49年 (ワ) 393号
(1) 商標法二条は、同法で用いる「商標」、「標章」、「標章の使用」について定義している。 同条の規定によれば、「文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合」はすべて商標法の規定にいう「標章」にあたり、「業として商 品を生産し、加工し、証明し又は譲渡する者がその商品について使用する右の定義 による標章」は、それがどのような内容のもので、どのような目的のもとにどこに表現されているか、一般人がその表現を普通どのように受け取るか等一切関係な く、商標法に規定する「商標」にあたる。
右「標章」の定義をしたうえで、同条三項に「標章の使用」について定義している。 右の定義による「標章」あるいは「商標」の概念が「取引社会に現に使用されている社会的事実としての標章ないし商標、あるいは社会的通念としての標章ないし商標の概念」(以下「本来の商標」という。)と異なるものであることは言うまでもない。
しかるに、同条で、「標章」、「商標」について社会的通念に反する定義を与えたのは、専ら立法技術上の便宜のみに基づくものである。 右の定義によれば、被告が業として子供用アンダーシヤツに、乙、丙各標章を附している行為、右標章を附した商品を販売等する行為が、商標法の規定にいう「標章の使用」、「商標の使用」にあたることは明らかで、否定の余地はない。
(2) 更に、同法第三七条は、第三者が、登録商標の指定商品について登録商標 に類似する商標を使用する行為を当該商標権を侵害するものとみなす旨規定してい る。
https://gyazo.com/c62ebe3fa21c8b02b66ff4244e207dbc
ポパイ事件
乙、丙各標章の現実の使用態様は・・・・もつぱらその表現の装飾的あるいは意匠的効果である「面白い感じ」、「楽し い感じ」、「可愛いい感じ」などにひかれてその商品の購買意欲を喚起させること を目的として表示されているものであり、一般顧客は右の効果のゆえに買い求める ものと認められ、右の表示をその表示が附された商品の製造源あるいは出所を知り あるいは確認する「目じるし」と判断するとは解せられない。
オールウェイ事件東京地裁 平成9年(ワ)第10409号
原告登録商標 「オールウェイ」
登録第1643930号
指定商品 コーヒー、その他旧第29類に属する商品
https://gyazo.com/7f28e24bbcc70a5cc1968097f5df7a70
PITAVA事件平成27年(ネ)第10074号
登録第4942833号
PITAVA(標準文字)
第5類「薬剤」
https://gyazo.com/71ee3384b16682277767790301ea5087
被告商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被告標章)は,被告商品の含有成分を略記したものであることを理解するものと認められる。また,・・・患者は,1包化した袋を開封し,その袋内に薬剤が入ったままの状態で服用するので,被告商品の錠剤に付された 「ピタバ」の表示を認識することはないのが通常である。もっとも,患者は,・・服用する場合・・,取り出した薬剤を一緒に服用すべきひとまとまりの薬剤として認識し,・・・その表示が薬剤の出所を示すものと理解することはないものと認められる。・・・被告商品に付された「ピタバ」の表示(被告標章)から商品の出所を識別したり,想起することはないものと認められるから,被告商品における被告標章の使用は,商標的使用に当たらない
商標法上の商品かどうか
BOSS事件
原告は、登録第695865号 第17類 被服、布製身回品、寝具類・商標BOSS を有している。
被告は、楽器等の製造販売を業とする会社であるが、親会社であるロ ーランド株式会社が有する、指定商品第11類、第24類につき「ボス」「BOSS」の商標権につき、右商標の使用許諾を受けている。
このような状況下、被告は、その製造する楽器類の宣伝広告及び販売促進用の物品(ノベルテイ) として、前記BOSSマークを附したTシヤツ、トレーナー等を製造させ、これを楽器等の購入者に無料で配付している。
問:被告がノベルティで配布するTシヤツに、BOSSなる標章を付す行為は、原告の商標権を侵害するか、検討しなさい。
BOSS事件
原告:商標登録第695865号 BOSS
指定商品:第17類 被服、布製身回品、寝具類
被告は、前記のとおり、BOSS商標をその製造、 販売する電子楽器の商標として使用しているものであり、前記BOSS商標を附し たTシヤツ等は右楽器に比すれば格段に低価格のものを右楽器の宣伝広告及び販売 促進用の物品(ノベルテイ)として被告の楽器購入者に限り一定の条件で無償配付 をしているにすぎず、右Tシヤツ等それ自体を取引の目的としているものではない ことが明らかである。また、前記認定の配付方法にかんがみれば、右Tシヤツ等は これを入手する者が限定されており、将来市場で流通する蓋然性も認められない。 そうだとすると、右Tシヤツ等は、それ自体が独立の商取引の目的物たる商品ではなく、商品たる電子楽器の単なる広告媒体にすぎないものと認めるのが相当であるところ、本件商標の指定商品が第一七類、被服、布製身回品、寝具類であり、電 子楽器が右指定商品又はこれに類似する商品といえないことは明らかであるから、 被告の前記行為は原告の本件商標権を侵害するものとはいえない。
商標権の効力が及ばない範囲
小僧寿し事件 平成6(オ)1102 平成9年03月11日 最高裁判所第三小法廷
「原審が、被上告人による被上告人標章一(1)ないし(9)、同二(2)(4)(5) の使用には、商標法二六条一項一号により本件商標権の禁止的効力が及ばないとした点は、正当である。フランチャイズ契約により結合した企業グループは共通の目 的の下に一体として経済活動を行うものであるから、右のような企業グループに属 することの表示は、主体の同一性を認識させる機能を有するものというべきである。 したがって、右企業グループの名称もまた、商標法二六条一項一号にいう自己の名称に該当するものと解するのが相当である。」
https://gyazo.com/e93c7ad8586294b2e667c78f317c3022https://gyazo.com/52fe77ec11ab59ce3709f13030a8101e
第二十六条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。
一 自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標
先使用権等の存在
第三二条 他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。
第三二条の二 他人の地域団体商標の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。
商標権の濫用
ポパイマフラー事件
ポパイマフラー事件
原告の登録商標:「POPEYE」の文字を上部に、「ポパイ」の文字を下部に それぞれ横書し、その中間に、水兵帽をかぶって水兵服を着用し顔をやや左向きに した人物がマドロスパイプをくわえ、錨を描いた左腕を胸に、手を上に掲げた右腕に力こぶを作り、両足を開き伸ばして立った状態に表された、文字と図形の結合から成る。
被告は、漫画「ポパイ」の著作権者から使用許諾を受けたメーカーから ポパイの文字を付したマフラーを仕入れて販売。
被告商品の乙標章は、マフラーの一方隅部分に「POPEYE」の文字を横書に して成り、丙標章は、マフラーにつけられた吊り札に、帽子をかぶって水兵服を着用し、顔をやや左向きにして口を閉じた人物が、口にマドロスパイプをくわえ、手 を上げた右腕に力こぶを作って得意顔で描かれ、その下部に右上り斜めに「POP EYE」の文字が横書された、図形と文字とから成る。
前記事実関係からすると、本件商標登録出願当時既に、連載漫画の主人公「ポパイ」は、一貫した性格を持つ架空の人物像として、広く大衆の人気を得て世界に知られており、「ポパイ」の人物像は、日本国内を含む全世界に定着していたものということができる。そして、漫画の主人公「ポパイ」が想像上の人物であって、「POPEYE」ないし「ポパイ」なる語は、右主人公以外の何ものをも意味しない点を併せ考えると、「ポパイ」の名称は、漫画に描かれた主人公として想起される人物像と不可分一体のものとして世人に親しまれてきたものというべきである。したがって、乙標章がそれのみで成り立っている「POPEYE」の文字からは、「ポパイ」の人物像を直ちに連想するというのが、現在においてはもちろん、本件商標登録出願当時においても一般の理解であったのであり、本件商標も、「ポパイ」の漫画の主人公の人物像の観念、称呼を生じさせる以外の何ものでもないといわなければならない。以上によれば、本件商標は右人物像の著名性を無償で利用しているものに外ならないというべきであり、客観的に公正な競業秩序を維持することが商標法の法目的の一つとなっていることに照らすと、被上告人が、「ポパイ」の漫画の著作権者の許諾を得て乙標章を付した商品を販売している者に対して本件商標権の侵害を主張するのは、客観的に公正な競業秩序を乱すものとして、正に権利の濫用というほかない。
真性商品の並行輸入
https://gyazo.com/c5e543e6e1487d42deb6803620b6d70d
フレッドペリー事件判決 最高裁平15.2.27判決(平14(受)1100)
商標権者以外の者が,我が国における商標権の指定商品と同一の商品につき ,その登録商標と同一の商標を付したものを輸入する行為は,許諾を受けない限り ,商標権を侵害する(商標法2条3項,25条)。しかし,【要旨1】そのような 商品の輸入であっても,(1) 当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者 から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり,(2) 当該外国におけ る商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同 一人と同視し得るような関係があることにより,当該商標が我が国の登録商標と同 一の出所を表示するものであって,(3) 我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから,当該商品と我が国の商標権 者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異 がないと評価される場合には,いわゆる真正商品の並行輸入として,商標権侵害と しての実質的違法性を欠くものと解するのが相当である。けだし,商標法は,「商 標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もつて産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」もの であるところ(同法1条),上記各要件を満たすいわゆる真正商品の並行輸入は, 商標の機能である出所表示機能及び品質保証機能を害することがなく,商標の使用 をする者の業務上の信用及び需要者の利益を損なわず,実質的に違法性がないとい うことができるからである。
これを本件について見るに,前記事実によれば,本件商品は,シンガポール 共和国外3か国において本件登録商標と同一の商標の使用許諾を受けたG社が,商 標権者の同意なく,契約地域外である中華人民共和国にある工場に下請製造させた ものであり,本件契約の本件許諾条項に定められた許諾の範囲を逸脱して製造され 本件標章が付されたものであって,商標の出所表示機能を害するものである。 また,本件許諾条項中の製造国の制限及び下請の制限は,商標権者が商品に対す る品質を管理して品質保証機能を十全ならしめる上で極めて重要である。これらの 制限に違反して製造され本件標章が付された本件商品は,商標権者による品質管理 が及ばず,本件商品と被上告人B1が本件登録商標を付して流通に置いた商品とが ,本件登録商標が保証する品質において実質的に差異を生ずる可能性があり,商標 の品質保証機能が害されるおそれがある。 したがって,このような商品の輸入を認めると,本件登録商標を使用するD社及 び被上告人B1が築き上げた,「F」のブランドに対する業務上の信用が損なわれ かねない。また,需要者は,いわゆる並行輸入品に対し,商標権者が登録商標を付 して流通に置いた商品と出所及び品質において同一の商品を購入することができる 旨信頼しているところ,上記各制限に違反した本件商品の輸入を認めると,需要者 の信頼に反する結果となるおそれがある。
【要旨2】以上によれば,本件商品の輸入は,いわゆる真正商品の並行輸入と認められないから,実質的違法性を欠くということはできない。
損害不発生の抗弁?
小僧寿し事件:登録商標に類似する標章を第三者がその製造販売する商品につき商標として使用した場合であっても、当該登録商標に顧客吸引力が全く認められず、登録商標に類似する標章を使用することが第三者の商品の売上げに全く寄与していないことが明らかなときは、得べかりし利益としての実施料相当額の損害も生じていないというべきである。
損害不発生の抗弁は認められるのか?
権利の割付がされている以上、最低限実施料相当額の損害を請求できる(商38条③)
小僧寿し事件では、小僧寿しが全国的に有名になってしまっている事情があるので、それを覆してまで商標権者を勝たせることはしなかった。
無効審判・取消審判
侵害の訴えに対し、商標法46条の無効審判を提起して、商標登録の無効化や
商標法50条の不使用取消審判を提起して、商標登録の取り消しをすることで対抗することが可能である。